筋電義手の前に、能動義手のリハビリテーションを

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筋電義手を希望する場合であっても、切断初期においては能動義手(仮義手)を用いたリハビリテーションを行うことを推奨します。

以下が理由です。

  1. 義手を用いた両手動作を獲得する
  2. 補助手としての義手の役割と使用法を学習する
  3. 重さや断端への負荷など義手そのものに慣れる
  4. 特に新鮮例では義手を使うことで断端の成熟を促す必要がある

1〜3は筋電義手だけでもうまくやればできるかもしれませんが、4は能動義手でやるべきことです。

断端の成熟が進む前に筋電義手を製作してしまうと、すぐにソケットが合わなくなり、筋電義手の操作もできなくなるというトラブルが発生します。

また、例えば水を使った作業や有機溶剤を扱う仕事、溶接の仕事などでは筋電義手よりも能動義手の方が適した場合もあり、用途によっては能動義手を使うメリットもあります。初めから選択肢が筋電義手のみになってしまうと、義手を使ってできることの幅を狭めてしまう可能性があります。

患者さんにできるだけ多くの可能性を提示するのがわれわれリハビリテーション作業療法)を提供する側の役割です。

www.jstage.jst.go.jp

筋電義手について

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筋電義手と代表的な筋電ハンドの種類

筋電義手についてはネットやニュースで取り上げられることも増えてきたので少しずつ認知されてきているように思います。興味を持ってくれる医療者も増えています。

しかし、筋電義手リハビリテーションについては全国の医療機関で正しく理解されているかというとまだまだ十分とは言えません。

これは上肢切断となる患者さんの数が圧倒的に少ないせいと思われます。医療機関同士で横のつながりがないので、経験が蓄積されにくいです。

僕が所属する病院は全国でも筋電義手、能動義手のリハビリテーションをそれなりの症例数で経験している数少ない病院の一つです。リハビリテーションのノウハクを多くの方に伝えていくのがわれわれの役目だとも考えています。

筋電義手ハンドは上の写真のように、最近ではいろいろな選択肢が出てきていますが、それぞれに特徴があります。特徴をよく知った上で処方する必要があります。値段の高いものが誰にとっても良いものとは限りません。大事なのは切断者が何をしたいか、何を必要としているかです。

切断者のニーズを汲み取り、適切なリハビリテーション作業療法)を提供する。これが筋電義手リハビリテーションの肝です。

筋電義手を始める前に、能動義手のリハビリテーションを経験することも重要なことです。ここについてはまた今度解説したいと思います。

筋電義手について僕がまとめた記事のリンクを添付します。参考にしていただければ。

www.jstage.jst.go.jp

上肢切断になってしまい、リハビリをやりたいけどどうしたらいいのか分からないとお困りの方がいらっしゃいましたら、相談に乗りますのでぜひご連絡ください。

 

これからの膝継手はコンピューター制御の時代

先日オットーボック社の協力を得てコンピューター制御の膝継手の勉強会を開きました。

具体的にはC-Leg4、Genium、低活動者用のKenevoの3種類についてです。大腿切断や股関節離断の方のためのパーツです。

コンピューター制御膝継手-オットーボック

これらの膝継手は知れば知るほど良くできていて、膝継手の最大の問題である膝折れのリスクを大幅に軽減し、装着者に安全な歩行を提供してくれます。

日本の公的支給制度で支給されるようにさえなれば、従来の膝継手は淘汰されるのではないかと思いました。

支給されるようになれば、というのはこれらの膝継手はとても高額なため、現在の制度ではなかなか支給が認められないからです。

そもそもGeniumとKenevoはまだ厚生労働省に認められたパーツになってません。C-Leg4は一応認められています。

C-Leg4(約200万円)は、労災の場合なら、必要性が認められれば支給されています。身体障害者手帳を使った福祉制度(ほとんどの方はこのケース)では基本支給してもらえる可能性は低いですが、差額を負担することで支給を認められたケースは最近経験しました。

価格の問題さえクリアできれば、コンピューター制御の膝継手がスタンダードになる日は近いと思ってます。

義手や義足における支給までの流れについて

義足や義手の”仮”と”本”の話は分かりにくいです。先日のエントリーでも触れました。

ytanaka207.hatenablog.com

仮義肢(義足・義手)と本義肢(義足・義手)の違いを押さえたところで、もう少し具体的に、病気や事故で手足を失くした時と労災事故で手足を失くした時に分けて、その後の手続きを含めた流れについてまとめてみました。

 

まずは病気や事故で手足を失くした時。”義手”となっていますが、”義足”に置き換えても同じです。

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これは東京都の場合で記載しており、そのため東京都心身障害者福祉センターという言葉が出てきています。いわゆる更生相談所という施設です。各都道府県にあります。

都道府県により判定がない場合もあり、その場合は代わりに意見書による書類判定となります。

 

次に仕事中の労災事故で手足を失くした時。

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こちらも”義手”となっていますが、義足の方は義手を義足に置き換えて読んでみてください。義足の場合、⑤のリハビリテーションというのはありません。本義足を申請したら次は支給という流れになります。

バリフレックスとトリトン

義足の足部。

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左がオズール社のバリフレックスで、右がオットーボック社のトリトン

どちらも高活動者向けですが、両者を履き比べると10人中10人がバリフレックスの方が良いと言います。

立脚初期から後期における後足部から前足部にかけての体重移動が、バリフレックスの方がスムーズで、履いていて気持ちが良いとのこと。

足部パーツは各社から発売されていて、無数に存在しますが、高活動者の場合、うちの病院では基本トリトンで、労災や差額負担が可能な方にはバリフレックス(平成29年度の価格は346,700円)を処方しています。ちなみにトリトンは229,900円。値段がぜんぜん違います。

身体障害者手帳を使うと公費の補助が受けられますが、バリフレックスは高額なため、なかなか支給を認めてもらえません。東京都の場合、差額負担という形で認められたケースはあります。

 

仮仮義足のソケット問題はBOAが解決してくれるかもしれない

仮仮義足のソケット問題について以下の記事で触れました。

ytanaka207.hatenablog.com

 

実は、この問題を解決してくれるかもしれないBOAという製品があります。

BOAを使った義足というのは既に米国では売られています(以下のリンクを参照)。

RevoFit Solutions - Click Medical

FIT & COMFORT ON DEMAND WITH THE BOA® CLOSURE SYSTEM RevoFit™ is a new generation technology solution that enables prosthetists to fabricate micro-adjustable prosthetic sockets. Once integrated, the fabricated socket fit can be instantly customized, by micro-adjustments of the Boa® reel by creating compression, suspension & closure around the limb.

BOAがあれば、義足の入院リハビリテーションの初回から

 1.チェックソケットでソケット作製

その後しばらくしてから、

 2.BOA付き仮義足の作製

で本義足まで持たせることができるのではないかと考えています。

 

BOAは日本では以下の会社が提供しています。

www.imasengiken.co.jp

まだ完成用部品に登録されていないのが残念。

登録されたら仮仮義足のソケット問題を解決するためにぜひ使ってみたいと思ってます。


BOA(義肢用)製作マニュアル動画

仮仮義足のソケット問題

義足のリハビリテーション普及の妨げになっているのが、仮義足を作る前に必要になる”もう一つの義足”の問題です。うちの病院ではこの”もう一つの義足”のことを”仮仮義足”と呼んでいます。

 

なぜ仮仮義足が必要なのか。

 

切断になったら仮義足を1本作ってそれで終わりでいいんじゃないの?と思われがちですが、実はそうではありません。

切断後初期における切断者の断端は、大きさがどんどん変わっていきます。入院中にも変わっていきます。これを断端の成熟と呼びます。

そのため断端の変化に合わせて義足も作り変えていく必要がでてきます。具体的には義足の中のソケットというパーツを作り変える必要があります。

ソケットとは断端を入れるパーツのことです。

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義足のソケットは靴よりももっと厳密なフィッティングが要求されます。フィッティングが悪いと痛くて歩けなかったり、傷ができたりします。

リハビリの最初の段階でこのような完成品を作ってしまうと、しばらくするとソケットが合わなくなり、義足を作り直さなければいけなくなってしまいます。

ところが義足の作り直しは医療保険では認められていませんし、身体障害者手帳で作るにも申請から許可が下りるまでに1ヶ月以上かかるので、そんなに待てません。それに仮義足作製からすぐに手帳を使って申請しても、もっと長く仮義足をはいてから申請してくださいと自治体に言われてしまって門前払いという現状もあります。

 

そのため、仮義足の前の仮仮義足が必要というわけです。仮仮義足でしばらく断端の成熟を進めてから仮義足の作製に入る。これが重要になります。

仮仮義足のソケットをどうするかですが、一つにはチェックソケットという透明ソケットを作るという方法があります。

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ただしこの方法はチェックソケットの作り直しにかかるコストを計上することが認められていないという問題があります。

プラスチックキャストで仮仮義足のソケットを作るという方法もあるようで、これも試してみないとなと考えているところです。

 

なかなか悩ましいのですが、できるだけ多くの病院に普及できるような方法を考えていきたいと思っています。