これからの膝継手はコンピューター制御の時代
先日オットーボック社の協力を得てコンピューター制御の膝継手の勉強会を開きました。
具体的にはC-Leg4、Genium、低活動者用のKenevoの3種類についてです。大腿切断や股関節離断の方のためのパーツです。
これらの膝継手は知れば知るほど良くできていて、膝継手の最大の問題である膝折れのリスクを大幅に軽減し、装着者に安全な歩行を提供してくれます。
日本の公的支給制度で支給されるようにさえなれば、従来の膝継手は淘汰されるのではないかと思いました。
支給されるようになれば、というのはこれらの膝継手はとても高額なため、現在の制度ではなかなか支給が認められないからです。
そもそもGeniumとKenevoはまだ厚生労働省に認められたパーツになってません。C-Leg4は一応認められています。
C-Leg4(約200万円)は、労災の場合なら、必要性が認められれば支給されています。身体障害者手帳を使った福祉制度(ほとんどの方はこのケース)では基本支給してもらえる可能性は低いですが、差額を負担することで支給を認められたケースは最近経験しました。
価格の問題さえクリアできれば、コンピューター制御の膝継手がスタンダードになる日は近いと思ってます。
義手や義足における支給までの流れについて
義足や義手の”仮”と”本”の話は分かりにくいです。先日のエントリーでも触れました。
仮義肢(義足・義手)と本義肢(義足・義手)の違いを押さえたところで、もう少し具体的に、病気や事故で手足を失くした時と労災事故で手足を失くした時に分けて、その後の手続きを含めた流れについてまとめてみました。
まずは病気や事故で手足を失くした時。”義手”となっていますが、”義足”に置き換えても同じです。
これは東京都の場合で記載しており、そのため東京都心身障害者福祉センターという言葉が出てきています。いわゆる更生相談所という施設です。各都道府県にあります。
都道府県により判定がない場合もあり、その場合は代わりに意見書による書類判定となります。
次に仕事中の労災事故で手足を失くした時。
こちらも”義手”となっていますが、義足の方は義手を義足に置き換えて読んでみてください。義足の場合、⑤のリハビリテーションというのはありません。本義足を申請したら次は支給という流れになります。
バリフレックスとトリトン
義足の足部。
左がオズール社のバリフレックスで、右がオットーボック社のトリトン。
どちらも高活動者向けですが、両者を履き比べると10人中10人がバリフレックスの方が良いと言います。
立脚初期から後期における後足部から前足部にかけての体重移動が、バリフレックスの方がスムーズで、履いていて気持ちが良いとのこと。
足部パーツは各社から発売されていて、無数に存在しますが、高活動者の場合、うちの病院では基本トリトンで、労災や差額負担が可能な方にはバリフレックス(平成29年度の価格は346,700円)を処方しています。ちなみにトリトンは229,900円。値段がぜんぜん違います。
身体障害者手帳を使うと公費の補助が受けられますが、バリフレックスは高額なため、なかなか支給を認めてもらえません。東京都の場合、差額負担という形で認められたケースはあります。
仮仮義足のソケット問題はBOAが解決してくれるかもしれない
仮仮義足のソケット問題について以下の記事で触れました。
実は、この問題を解決してくれるかもしれないBOAという製品があります。
BOAを使った義足というのは既に米国では売られています(以下のリンクを参照)。
RevoFit Solutions - Click Medical
FIT & COMFORT ON DEMAND WITH THE BOA® CLOSURE SYSTEM RevoFit™ is a new generation technology solution that enables prosthetists to fabricate micro-adjustable prosthetic sockets. Once integrated, the fabricated socket fit can be instantly customized, by micro-adjustments of the Boa® reel by creating compression, suspension & closure around the limb.
1.チェックソケットでソケット作製
その後しばらくしてから、
2.BOA付き仮義足の作製
で本義足まで持たせることができるのではないかと考えています。
BOAは日本では以下の会社が提供しています。
まだ完成用部品に登録されていないのが残念。
登録されたら仮仮義足のソケット問題を解決するためにぜひ使ってみたいと思ってます。
仮仮義足のソケット問題
義足のリハビリテーション普及の妨げになっているのが、仮義足を作る前に必要になる”もう一つの義足”の問題です。うちの病院ではこの”もう一つの義足”のことを”仮仮義足”と呼んでいます。
なぜ仮仮義足が必要なのか。
切断になったら仮義足を1本作ってそれで終わりでいいんじゃないの?と思われがちですが、実はそうではありません。
切断後初期における切断者の断端は、大きさがどんどん変わっていきます。入院中にも変わっていきます。これを断端の成熟と呼びます。
そのため断端の変化に合わせて義足も作り変えていく必要がでてきます。具体的には義足の中のソケットというパーツを作り変える必要があります。
ソケットとは断端を入れるパーツのことです。
義足のソケットは靴よりももっと厳密なフィッティングが要求されます。フィッティングが悪いと痛くて歩けなかったり、傷ができたりします。
リハビリの最初の段階でこのような完成品を作ってしまうと、しばらくするとソケットが合わなくなり、義足を作り直さなければいけなくなってしまいます。
ところが義足の作り直しは医療保険では認められていませんし、身体障害者手帳で作るにも申請から許可が下りるまでに1ヶ月以上かかるので、そんなに待てません。それに仮義足作製からすぐに手帳を使って申請しても、もっと長く仮義足をはいてから申請してくださいと自治体に言われてしまって門前払いという現状もあります。
そのため、仮義足の前の仮仮義足が必要というわけです。仮仮義足でしばらく断端の成熟を進めてから仮義足の作製に入る。これが重要になります。
仮仮義足のソケットをどうするかですが、一つにはチェックソケットという透明ソケットを作るという方法があります。
ただしこの方法はチェックソケットの作り直しにかかるコストを計上することが認められていないという問題があります。
プラスチックキャストで仮仮義足のソケットを作るという方法もあるようで、これも試してみないとなと考えているところです。
なかなか悩ましいのですが、できるだけ多くの病院に普及できるような方法を考えていきたいと思っています。
仮義肢(仮義足・仮義手)とは
病棟での勉強会のために作ったスライドから。
よく誤解されるのですが、”仮”義肢(仮義足・仮義手)と言っても、出来上がる義肢は本義肢と変わりありません。
断端が成熟していく過程で作るので、作り直しは仮義肢完成後から半年〜1年が目安です。
上記の通り、作り直す時は本義肢になります。義肢は劣化していくものなので、壊れたら、もしくは耐用年数を目安に作り直していくことになります。
義足のリハビリテーションが広まらない原因とその対策
一つには脳卒中など他の疾患に比べて、患者数が少ないことがあります。
昨今では下肢切断者の多くは糖尿病や閉塞性動脈硬化症など血管がボロボロになることが原因で切断に至ります。交通事故などの外傷で切断になる人のほうが少ないです。
高齢化社会に伴い糖尿病や閉塞性動脈硬化症の高齢者が増えてはいるものの、救肢と言って足を残すための医療も進歩していることもあり、数としてはそれほど多くはありません。
そのため地域のリハビリテーション病院でも切断者はたまにしか入院せず、そのため切断のリハビリテーションの経験が蓄積されないというわけです。
もう一つは深く関わらなければならない職種が増えるということがあります。
その職種は義肢装具士です。
義肢装具士は義足を作るエキスパートですから、近くにいてくれるに越したことはありません。
ところが、”リハビリテーションセンター”ならセンター内にお抱えの義肢装具士がいたりしますが、”リハビリテーション病院”には義肢装具士は常駐していません。
義足のリハビリテーションを円滑に進めるためには理学療法士、義肢装具士、医師が特によく情報共有できなければなりませんが、義肢装具士が病院常駐じゃないことがそれを難しくしていると思われます。
これらの問題を解決するためには、
- 受け入れ側のリハビリテーション病院が定期的に切断者を受け入れるようにすること(リハ病院のレベルアップ)
- 義肢装具士に情報共有の輪の中に入ってもらえるよう、理学療法士や医師の方から意識して声をかけること。カンファレンスのような場があると良い。(多職種連携)
- どこのリハビリテーション病院でも適用できる標準化された義足リハビリテーションプログラムの確立(義足リハプログラムの確立)
が必要だと思っています。